プログラミングは過去のものとなり、現在では画像処理システムVisionLine Detectが、人工知能を利用しながらレーザ溶接の位置を検出するようになっています。これまでは、経験豊富なユーザーが長時間かけてプログラミングする必要がありましたが、今では、画像を数枚クラウドアプリケーション「EasyModel AI」にアップロードして、パーツの溶接位置にマウスで印を付けるだけで十分です。 そうすると、EasyModel AIが画像処理システムVisionLine Detect用にAIモデルを作成し、同システムが自分でトレーニングを行います。そして、VisionLine Detectが溶接位置を独りでに検出し、部品上でレーザを正しく配置します。しかもこれが、以前と比較してより一層速く、高精度で実現します。この新しいソリューションEasyModel AIは、TRUMPFで既に現時点で使用されている多種多様なAIの一例にすぎません。

AIチーム:イェンス・オットナート、ルイーザ・ペータース、フロリアン・キーファー(左から)は、TRUMPFの多種多様な事業領域でAIの使用を更に推進しています。
ためらいを克服
「自分の生産現場でAIはいらない!」こういうお客様の声を、TRUMPFレーザ技術部門のフロリアン・キーファーはよく耳にしています。多くの場合、疑念を晴らすには、ユーザーにAIを日常作業で自分で体験してもらうしかありません。その一例が、レーザ溶接でのパーツ検出に役立つAIベースのTRUMPFクラウドアプリケーションEasyModel AIです。これがあれば、画像検出によって生産プロセスの安定性が向上します。その結果、特に自動車製造などでの大量生産にメリットがもたらされ、理想的な場合には生産数量が増加すると同時に、極めて高いデータ保護基準が満たされます。TRUMPFレーザ技術部門でパフォーマンスソリューションプロダクトマネジメント課長を務めているキーファーの表情からは、熱意と興奮が見て取れます。
AIなしの従来型の画像検出システムでは、形状が複雑であるか、部品が極小であるか、部品の反射率が高いと、限界に達してしまいます。これには例えば、バッテリーセル、デリケートな電子コンポーネントや反射する丸型ケーブルを正確に溶接しなければならない場合などが該当します。これらの用途では、レーザは数秒以内に何千回もの溶接を行います。従来型の画像検出システムが部品を正確に検出しないと、非常に小さいミスが発生しただけで、重大な問題に至ってしまう可能性があります。例えば、ごくわずかなズレであっても自動車のバッテリーが使い物にならなくなってしまい、不良品の数が増えるだけでなく、コストも急激に増加してしまいますが、EasyModel AIがVisionLine Detect用に生み出したAIモデルであれば、レーザ溶接でのこの主要な問題を解決することができます。
AIに関する知識は不要
フロリアン・キーファーはプロダクトマネージャーとして、3年前からEasyModel AIの開発を推進しています。まず大勢のお客様と話し合い、市場を分析し、シンプルなクラウドベースのソリューションの開発に注力しました。今日のEasyModel AIユーザーにとって、AIに関する知識は不要になっており、自分の部品の良質な画像だけで事足りるようになっています。ユーザーがこの画像をアプリケーションにアップロードし、Microsoft Paintで使用されているようなシンプルなツールで溶接位置に色を付けた後に、AIが自動でトレーニングを行います。わずか数枚の画像で、ユーザーは溶接スポットに自分で印を付けます。ユーザーはその後、このモデルが自主的に提案した溶接スポットを点検し、必要に応じて修正するだけで十分です。10枚から50枚の画像をトレーニングした後、EasyModel AIは信頼性の高いAIモデルを作成します。通常、この所要時間はわずか数分から最長で数時間です。ユーザーがAIモデルをダウンロードして、画像処理ソフトウェアVisionLine Detectに転送すると、このソフトウェアが高い信頼性と繰り返し精度で部品を検出するようになります。そして、溶接スポットを施す必要がある位置を正確に把握した状態で、レーザ溶接システムが残りを受け持つことになります。

機械工学で博士号を取得しているイェンス・オットナートは、AI研究開発が専門分野であり、職業訓練責任者として、TRUMPFをデータドリブン企業に発展させていきたいと考えています。
一にも二にも三にもデータ
「既にデータの生成段階で、そのうちのどれが企業とそれぞれの生産プロセスにとって重要であるかを理解できる人材を必要としています」と語っているイェンス・オットナートは、そのこともあってTRUMPFのグローバル職業訓練責任者になり、まさにこの能力をTRUMPFの若い従業員に教え込んでいます。「これは、私たちが直面している最大の変革です。だからこそ、出来る限り多くの人材が、AIの機能を大まかに理解している必要があるのです。」
AIがTRUMPFで果たす主要な役割には、イェンス・オットナートの経歴も多かれ少なかれ関係しています。機械工学で博士号を取得しているオットナートは、元々は職業訓練とは全く関係なく、以前はカールスルーエ工科大学(KIT)でAIの研究開発に携わっていました。 彼の使命は、TRUMPFをデータドリブン企業に発展させることですが、その理由は、データが人工知能の基礎であるからです。既に過去のプロジェクトでも、この目標の推進に熱心に取り組んでいました。従ってオットナートにとって、次のステップとして、知識を若い人材に継承し、職業訓練生やデュアルシステム学生のために力を尽くすことは、自然な流れでした。現在の焦点は、ディッツィンゲンで15職種にまたがる300人の職業訓練生とデュアルシステム学生、そしてTRUMPF全従業員の研修に当てられています。

切断エッジの神秘
レーザ溶接では、極小のケーブルがマシンにとって課題となりますが、レーザ切断では、切断エッジがそれに相当します。「お客様は、出来る限り高いパーツ品質を求めています。それには、正確で高精度の切断エッジも該当します。ただしそれは経験が浅いオペレーターにとって、材料や表面の品質がレーザ切断に不向きの場合に、非常に困難になります」と語るルイーザ・ペータースは、TRUMPFの工作機械部門で、TruLaserのプロダクトマネージャーとして3年前から板金部品のエッジ品質に取り組んでいます。そのような場合、板金加工企業の専門人材は、各種の切断パラメーターを再調整し、切断プロセスを選択し、レーザ切断を行い、パーツ品質を主観的に評価して、希望の結果が得られるようにしなければなりません。エッジ品質が不十分である場合は、ひとつひとつの切断パラメーターを順々に変更しなければなりません。これは多くのノウハウを要し、不良品の増加と生産時間の浪費につながってしまうほか、この作業を担当できる専門人材が常にいるとは限りません。このような状況に向けてTRUMPFのエキスパートたちが開発したのが、Cutting Assistantです。
この革新的なアシスタンスシステムの主な構成要素は、レーザ切断機に接続されているシンプルなハンディスキャナーだけです。これを使用して、ユーザーは部品の改善を要する切断エッジをスキャンします。スキャン後、このアシスタンスシステムはAIベースのアルゴリズムを用いてデータを処理します。このAIは、TRUMPFが100,000枚以上の画像でトレーニングしたものです。AIアシスタントが切断エッジの品質を客観的に評価し、関連する各切断パラメーターの調整を自主的に提案します。ユーザーは、非常に短い時間内により優れた切断結果が得られるようになります。また、AIアルゴリズムは生成した提案から学習し、将来的により一層優れた提案を行うようになります。

AIによるイノベーション
ドイツ連邦統計局の調査によると、ドイツ企業の5分の1がAIテクノロジーを利用しており、上昇傾向にあるとのことです。AIは、世界中のデジタルトランスフォーメーションで不動の要素であり、ドイツでTRUMPFは、多数のAIベースのイノベーションで先駆的な役割を果たしています。今年当社は次のステップに進み、組織構造を刷新して、世界中の全部署でAIシステムをネットワーク接続し、企業全体で利用できるようにしています。急展開していますので、AIハブの新チームは多忙を極めることになるでしょう。