可能性を秘めたレーザ粉体肉盛り
toolcraft AGは、未来を指し示す技術に長けた革新的な企業です。そのことを示すように、toolcraftは早くも2011年に粉末床溶融結合法による積層造形用の装置を初めて購入しています。ドイツのゲオルゲンスグミュントに拠点を置く家族経営企業である同社は、積層造形分野の先駆者と評されており、現在の所有マシンにはTRUMPFのTruPrint 3000 5台、TruPrint 5000 1台、グリーンレーザのTruPrint 1000 1台などが含まれています。また、toolcraft AGではレーザ粉体肉盛り(LMD)に関しても、クリストフ・ハウク技術・販売担当取締役とフロリアン・シュルントLMDプロジェクトリーダーが既に何年も前から取り組んでいます。国際的に有名なある消費財メーカーから開発パートナーシップの申し出を受けた際、両氏は二つ返事で快諾しました。そこでは、高い負荷がかかるツールの機能膜構造を今後は材料除去ではなくLMDで生み出すことが課題になっていました。オーダーが確定していない段階で、クリストフ・ハウク取締役は分厚い仕様書を手にして、特別仕様機の件でTRUMPFに相談を持ちかけました。TRUMPFのエキスパートチームはTruLaser Cell 3000をベースにマシンを作り上げ、クリストフ・ハウク取締役やフロリアン・シュルント・プロジェクトリーダーなどの経験豊富なユーザーにも満足頂いています。
課題
toolcraftはアーヘンのレーザ技術研究所(ILT)と密接な協力関係を築いています。その理由は、研究所で有望な技術が発見され次第、toolcraft AGのクリストフ・ハウク技術・販売担当取締役がそれを生産現場で実用化できるようにするためです。この関係は2011年の金属の積層造形でもそうでしたし、2019年のレーザ粉体肉盛り(LMD)でもほぼ同様でした。そしてこの度、ILTの研究者が国際的に有名なある消費財メーカーに、専門能力の高い企業としてtoolcraftのことを紹介するに至ったのです。「ビジョンが次から次へと浮かんでくる」企業であることが推薦の理由でした。ユーザーのアプリケーションは、LMDに関してクリストフ・ハウク取締役がまさに期待していたタイプのものでした。あるツールに関して、これまでは切削加工で施していた機能膜構造をLMDで生み出すことでコストを削減し、持続可能性を高めることが求められていたのです。そこでのアイディアは、本体を低価格の材料で製造し、構造をLMDで施すことにありました。それは同時に、構造が摩耗した際にツールを簡単に修理できるという利点も持ち合わせていました。まだオーダーが確定していたわけではありませんでしたが、ハウク取締役は思い切ってTRUMPFに特別仕様機の設計を依頼しました。同機にはツールの生産だけでなく、加工パラメーターの開発から材料試験、そして品質測定と摩耗測定に至るまで、LMDに関するあらゆるテーマが可能であることが求められました。
ソリューション
toolcraft用特別仕様機の心臓部はTruLaser Cell 3000です。この5軸レーザ加工機は、2D/3D溶接・切断ならびにレーザ粉体肉盛り用のコンパクトマシンとしてTRUMPFによって開発されたものです。大型重量部品の回転対称加工を可能にするため、特別仕様機には長さ6メートルのマシンベッドを有する回転・送りユニットが装備されました。マシン全体を横切るマシンベッドの目的は、ローディングとアンローディングを簡単にすることにあります。部品はNC軸によって確実に作業エリア内に配置されます。ですが、回転軸を追加することで初めて、重量部品の加工に必要な速度とダイナミック性能が得られるようになります。どちらの回転軸にも同期型ドライブが備わっています。それに加えて、両軸を近づけるか遠ざけで、様々な長さの部品を加工できるようにもなっています。
また、開発チームはTruLaser Cell 3000の一面にオプションモジュールと呼ばれるモジュールを連結しました。作業エリアには2D切断用サポートとフレキシブルな治具インターフェースが備わっており、オプションモジュールをモジュール式にセットアップできるようになっています。非回転対称部品の加工には、垂直の回転軸が役立ちます。しかも、toolcraftでのSiemens NX環境とのインターフェースを備えたスキャナーを使用して、LMD溶接品質を点検し、古めの部品では粉体肉盛の摩耗を光学式に検出することが可能になっています。さらに、「高速レーザ粉体肉盛り(HS-LMD)」技術が内蔵されているため、toolcraftでは回転対称部品に薄いコーティングを極めて迅速に施すことも可能です。
実行
toolcraftとTRUMPFは何年も前から密接なパートナーシップで結ばれています。そのため、クリストフ・ハウク取締役とフロリアン・シュルント・プロジェクトリーダーは、TRUMPFのディッツィンゲン拠点の開発チームが仕様書の広範囲にわたる要件に対して、特別なものを考案する良い機会であるとの意気込みを見せた時に驚きはしませんでした。「成功の鍵はTRUMPFの担当者でした。当社と同レベルの情熱でこのテーマに取り組み、こちらの要望をすべて見事に実現してくれました」とクリストフ・ハウク取締役は満足しています。
展望
現在では、toolcraftは消費財メーカーからのオーダーを受注するに至っています。ですがtoolcraftはそれで満足せず、始まりにすぎないと捉えています。「ハイブリッド加工により、大型部品も生産できるようになりました」とハウク取締役は説明しています。「小さめの部品を粉末床で積層造形し、それをレーザ粉体肉盛りで結合しています。これまでは、この工程を10時間かけて手作業で行っていました。ですがTruLaser Cell 3000ではこの工程が自動化され、所要時間が6時間になっています。」ILTの研究者がコメントしていた通り、toolcraftではビジョンが次から次へと浮かんでくるため、アイディア不足に陥ることはありません。それを証明するかのように、クリストフ・ハウク取締役は超短パルスレーザを追加することで得られる可能性について既に考えを巡らしています。「マシンが更に改良される可能性も十分にあります」と同氏はほくそ笑んでいます。